《
ボヘミアの醜聞
》19
「おやすみなさい、 シャーロックホームズさん」
その時道路には何人かいたが、 その挨拶はコートを着た細い若者が掛けたように見えた、 急ぎ足に立ち去っていく
「あの声には聞き覚えがあるな」、 ホームズが言った、 薄暗い灯りに照らされた通りをじっと見ながら。「いや、 くそ!いったいあいつは誰だったんだろう」
その夜はベーカー街に泊まった、 次の朝、私達がトーストとコーヒーの朝食を摂っていると、 ボヘミア王が勢い込んで部屋に入ってきた
「入手したのか!」、 彼は叫んだ、 ホームズの両肩をつかんで、 彼の顔を必死で覗き込んだ
「まだです」
「しかし見込みはあるのだな?」
「そのとおりです」
「では行こう。もう我慢できん」
「馬車を呼ばねばなりません」
「四輪馬車を待たせてある」
「それは話が簡単ですな」、 我々は下に降り、もう一度ブライアニ・ロッジに出発した
「アイリーン・アドラーは結婚しました」、 ホームズが言った
「結婚!いつだ?」
「昨日です」
「しかし誰と?」
「ノートンというイギリス人の弁護士です」
「しかしその男を愛せるとは思えんが」
「私はそうあって欲しいと期待しています」
「なぜそう願う?」
「なぜならそれで陛下の将来の悩みの種がすべてなくなるかもしれないからです。もしあの女性が夫を愛しているなら、 彼女は陛下を愛していません。もし彼女が陛下を愛していないなら、 彼女には陛下の計画を邪魔する理由が無い」
「そのとおりだ。しかしな…、 ああ、 彼女が私の立場に合えばよかったのに、 どんな王妃になったことか!」、王は機嫌悪そうな沈黙に戻り、 サーペンタイン通りに止まるまで一言もしゃべらなかった
ブライアニ・ロッジの玄関は空いていた、 そして年配の女が階段に立っていた。我々が馬車から降りると彼女はあざ笑うような目で見つめた
「シャーロックホームズさんでございますね?」、 彼女は言った
「僕がホームズだが」、 ホームズは答えた、 彼女を訝るような、むしろ驚いたような目で凝視しながら
「なるほど!、 私の主人はあなた様が来るだろうと私におっしゃっておりました。主人は今朝、旦那様と一緒に家を出ました、 チャリングクロス駅を5:15に発つ列車でヨーロッパに向けて」
「なに!」、 シャーロックホームズは後ろへよろめいた、 悔しさと驚きで蒼白になって。「彼女はすでにイギリスを発ったというのか?」